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2007年6月の集英社文庫の新装版では、同社刊の雑誌週刊少年ジャンプで『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』などを連載した漫画家・小畑健が表紙画を担当。中高生を中心に話題を呼び、発売から1か月半で75,000部という古典文学としては異例の販売数となっている。
あらすじ
第一の手記
「自分」は人とは違う感覚を持っており、それに対して混乱し発狂しそうになる。それゆえにまともに人と会話が出来ない「自分」は、人間に対する最後の求愛として道化を行う。だがその「自分」の本性は女中や下男に犯されるという残酷な犯罪を語らず力なく笑っている人間であった。結果的に「自分」は欺きあう人間達に対する難解さの果てに孤独を選んでいた。
第二の手記
中学校時代、「自分」は道化という自らの技術が見抜かれそうになり恐怖する。その後旧制高校において人間への恐怖を紛らわすために悪友堀木により紹介された酒と煙草と淫売婦と左翼思想とに浸った。これらはすべて、「FX
」にとって醜悪にみえる人間の営みからひとときの解放をもたらす物だった。
しかし急激に環境が変わることにつれて様々なしがらみから逃れがたくなり、結果として人妻との暖かな一夜の後に、彼女と心中未遂事件を起こす。しかし、「自分」一人生き残り、自殺幇助罪に問われる。結局、父親と取引のある男を引受人として釈放されるが、混乱した精神状態は続く。
第三の手記
罪に問われたことをきっかけとして高等学校を放校になり、一時引受人の男の家に逗留することになるが、男に将来どうするのかと詰め寄られて「自分」は家出をする。それをきっかけに子持ちの女性や、バーのマダム等との破壊的な女性関係にはまりこむことになり、「自分」はさらに深い絶望の淵に立つことになる。
その果てに最後に求めたはずの無垢な女性が、出入りの商人に犯されて、あまりの絶望にアルコールを浴びるように呑むようになり、ついにある晩、たまたま見つけた睡眠薬を用いて、発作的に再び自殺未遂を起こす。
なんとか助かったものの、その後は体が衰弱してさらに酒を呑むようになり、ある雪の晩ついに喀血する。薬を求めて入ったFX
で処方されたモルヒネを使うと急激に調子が回復したため、それに味を占めて幾度となく使うようになり、ついにモルヒネ中毒にかかる。モルヒネほしさのあまり何度も薬屋からツケで薬を買ううちにのっぴきならない額となり、ついに薬屋の奥さんと関係を結ぶに至る。その、自分の罪の重さに耐えきれなくなり、「自分」は実家に状況を説明して金の無心の手紙を送る。
やがて、家族の連絡を受けたらしい引受人の男と堀木がやってきて、病院に行こうと言われる。行き先はサナトリウムだと思っていたら、脳病院へ入院させられる。そして他者より狂人としてのレッテルを貼られたことを自覚し、「自分」はもはや人間を失格したのだ、と確信するに至る。
数ヶ月の入院生活ののち、故郷に引き取られた「自分」は廃人同然となり、不幸も幸福もなく、ただ過ぎていくだけなのだと最後に語り自白は終わる。
『ねじまき鳥クロニクル』(ねじまきどりくろにくる)は、村上春樹の長編小説。
村上春樹がプリンストン大学に客員研究員として招聘された際、滞在1年目に始めの2部が執筆され、最終的に加筆と推敲をあわせて4年半の歳月が費やされている[1]。村上春樹の小説としては初めて戦争等の巨大な暴力を本格的に扱っている。
2002年時点で、単行本・くりっく365
を合わせて227万部が発行されている。
評価
1996年に読売文学賞を受賞。英語を始めとする各国語に翻訳されている。ジェイ・ルービンによる英語版は国際IMPACダブリン文学賞にノミネートされた。
他の作品との関係
短編集『パン屋再襲撃』に収録された「ねじまき鳥と火曜日の女たち」を改稿したものとなっており、『ねじまき鳥クロニクル』の第1稿が執筆された後、推敲によって大幅に削られた部分が後の『国境の南、太陽の西』となった[1]。
この小説で取り上げた、戦争に代表される大きな暴力の根源がどこにあるのかと言う疑問が、後に『アンダーグラウンド』『約束された場所で』の執筆の大きなきっかけとなった。また、『日出る国の工場』で取材を行ったカツラ工場の話題が作中に登場し[2]、ノモンハン事件を取り上げたことで雑誌社から声が掛かりノモンハンへと旅行している[3]。
特記事項
本作品は、第1部と第2部が執筆された後、時間を空けて第3部が書き下ろされている。外国為替証拠金取引
には、村上春樹は第1、2部を発表する前に第3部を書くことを決めていたが第2部までを一つの完成した作品と考えて先に刊行しており、このことは批判の対象にもなった[1]。第3部を加筆した契機については、筆者の「登場人物に対する責任感」であると述べられている[1]。
1984年6月から1986年の冬が主な舞台。作品を通して「水」のイメージで書かれている[1]。
第1部 泥棒かささぎ編
世田谷に住む夫婦(岡田亨、クミコ)の家で飼っていた猫が行方不明になる。会社を辞めたばかりである「僕」は家事のあいだに猫を探すが、その行程で不思議な人達と出会っていく。電話の女・ケガを理由に登校拒否を続ける女子高生(笠原メイ)・奇妙な帽子の占い師(加納マルタ)・60年代初期風ファッションに身をつつむ占い師の妹(加納クレタ)・・・。
それぞれが不思議な話を「僕」に語る。それでも猫は見つからない。笠原メイは水脈があるのに枯れている「井戸」を僕に教える。
そしてある日、ある知らせを持った資産運用
が「僕」をたずねる。そして、かつて体験した1939年のノモンハン事件に先立つ「ある作戦」で起こった「ある出来事」を僕に語る。
第2部 予言する鳥編
老人(間宮中尉)と会った日からクミコが失踪し、しばらくしてから、綿谷昇が「クミコが「僕」と離婚したがっている」と、告げる。
「僕」が失踪の理由が分からず困惑する中で笠原メイや加納マルタ、加納クレタ、間宮中尉それぞれが「僕」に持ち寄る物語も一層、不可解、不可思議な物となっていく。そして、「僕」は枯れ井戸に降りることを決意する。井戸の中に長時間も居た為か、「僕」の意識は肉体を解離して「電話の女」のいる部屋へと跳んでいく。だが、そこではほとんどなにも分からず井戸の底に戻る。加納クレタはこのままここにいると非常に危険だと「僕」に逃げることを勧めるが井戸の底の体験からクミコが「僕」の助けを求めていると確信し、クミコを救い出すために残ることを決意する。そして、加納クレタ、笠原メイが去っていく。
第3部 鳥刺し男編
戦うことを決意した「僕」だが戦う方法は1つしかなかった。「井戸」を手に入れること。その方法を考え行動を始めた矢先、ものごとが動き出したことを示すかのように、いなくなった猫が家に戻ってくる。また、赤坂ナツメグ、シナモンと出会い、「井戸」を手に入れる条件として「仮縫い」という不思議な仕事をすることになった。そして「僕」はついに「井戸」を手に入れることに成功する。その頃、牛河が綿谷昇との連絡役となり「僕」の家に訪れクミコと離婚を執拗にせまる。
ある日、突然「井戸」を手放さなくてはならない様な状況に追い詰められる。ナツメグの取り止めのない彼女に関わる人達の話、シナモンが示す物語、間宮中尉から新たに届く手紙、笠原メイの応援、以前に聞いていた、投資信託
まではただ不可解であったり不思議だっただけの物語が敵と戦い方や身を守るため手立てだと気が付く、それら全てを「僕」の力として、井戸の底に行きクミコを救い出すための最後の戦いを挑む。
登場人物
僕(岡田亨、おかだ とおる)
叔父の世田谷の家を安く借りている。以前は法律事務所の下働きをしていたが無職。
家事ができ、炊事、洗濯、掃除等を無難にこなせる。猫(ワタヤノボル)を飼っている。
クミコ(岡田久美子、おかだ くみこ)
「僕」の妻であり旧姓は綿谷。編集者で働き、副業としてイラストを書いたりしている。元運輸省キャリアの父と上級官僚の娘を母に持つ。9歳年上の兄(ノボル)、5歳年上の姉(食中毒で死亡)、3人兄妹の末っ子。東京生まれだが、幼少の頃、新潟の祖母に預けられて育った。
綿谷 昇(ワタヤ ノボル)
久美子の兄で、主人公の「僕」と確執がある。東京大学卒、イェール大学大学院に留学などの後に東大大学院を出て学者となる。離婚歴あり、子供なし。岡田家で飼われている猫に容貌が似ているために彼の名前が猫につけられた。新潟の叔父が大臣経験のある衆議院議員で高齢の為に引退を考えている中で後継者として名前が上がり衆議院議員選挙に立候補することになる。
加納マルタ
占い師。ただし、お金を取らない。
予知能力等の超能力があり、その力や自分に合う水の研究をしている。何故かいつも赤いビニール製の帽子をかぶっている。本当の苗字も加納だがマルタは仕事用の名前。マルタ島の水との相性が良かったためにこの名をつけた。
加納クレタ
加納マルタの妹、マルタの助手をしている。クレタにもある種の超能力がある。
マルタの5才年下。5月29日生まれクレタもマルタと同様に仕事用の名前。但し、マルタ島とおなじく地中海にあるクレタ島から採っただけでクレタ本人は海外旅行の経験もない。
笠原メイ
岡田家の近所の住人。高校生、バイクによる事故でケガをしてから、それを理由に高校に通っていない。時々、カツラに絡んだアルバイトをしている。
本田さん、本田伍長(本田大石)
北海道旭川出身。綿谷家が一時期贔屓にしていた占い師。ノモンハン事件より少し前の作戦で間宮中尉と出会う。ノモンハン事件の時に聴覚を失い除隊する。彼の大きな後押しにより「僕」とクミコの結婚が叶った。
間宮中尉(間宮徳太郎、まみやとくたろう)
広島県出身。ノモンハン事件より少し前の時期の小規模な作戦で本田伍長と出会う。当時は兵要地誌班に所属。戦後、シベリアに抑留される。帰国後、教職に就き定年を迎える。現在は簡単な農業などを営む。元軍人らしく姿勢が良い。
赤坂ナツメグ
横浜生まれ、満州国新京(現在の長春)育ち。ソ連の参戦直後に満州を脱出し終戦を船上で迎える。元々は夫婦で有名ファッションデザイナーだったが夫の死を機会に廃業。仮縫い師と言う仕事をしている。元々ファッションデザイナーだったため服装にうるさく本人も綺麗に身なりを整えていて、着こなしも見事。
赤坂シナモン
ナツメグの息子、6才の時に声を失う。しかし、顔の表情と手話のようなもので違和感を覚えさせないコミュニケーション能力を持つ。車の運転、パソコンなども器用にこなす。
ナツメグの仕事の補佐をしている。細身、ハンサム、且つ、センスの良い服装をしている。
牛河
綿谷昇の秘書、見た目が醜く、身なりも貧相。その仕事は一般的な秘書とは違い、表に出来ない問題に対処すること。綿谷ノボルの叔父が衆議院議員だった頃からの秘書。
電話の女
突然、岡田家に電話をかけてくる。全てが不明(物語が進むにつれ「僕」はその正体を確信していく)。ただし、岡田亨の私生活を詳しく知っている。
猫(ワタヤ・ノボル 後にサワラに改名)
岡田家の飼い猫。何かの「予兆」を示すかのように、ある日突然いなくなり、1年近く経ったのち家に戻ってくる。