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『悲の器』(ひのうつわ)は、高橋和巳が発表した長編処女小説。第一回文藝賞受賞作。 新潮社、河出書房より上梓されている。また1度だけだが、テレビドラマ化(近鉄金曜劇場)されたことがあり、元NHKアナウンサーの野際陽子が、女優としてドラマに初出演した作品でもあった。
概要
大学教授で世界的な刑法学者正木典膳は、日本のエリート思想の権化である。その彼が、同じく大学教授の令嬢栗谷清子との婚約を発表するのだが、典膳によって妊娠させられた家政婦の米山みきに不法行為による慰謝料請求の訴えを起こされ、スキャンダルの人となる。「法にあたるようなやましいことをしていない以上人に後ろ指を差されるいわれは無い」と考える典膳はみきを名誉毀損で訴え返すが、次第に彼は理性と愛の相剋に悩みだし、社会的にも、精神的にも破滅していくのだった……。戦後の神無き知識人の心理を硬質な文体で暴き出す。
『氷点』(ひょうてん)とは旭川市出身の作家、三浦綾子が発表したベストセラー小説。
1963年にFX
が募集した懸賞小説の入選作で、翌年から朝日新聞朝刊に連載され好評を得た。「続・氷点」は1970年5月12日から1971年5月10日まで朝日新聞に連載された。共に度々ドラマ化されている。
北海道旭川市を舞台に人間が生まれながらにしてもつ罪「原罪」をプロテスタント作家の立場から追求した。
物語の舞台となった旭川市の外国樹種見本林には、三浦綾子記念文学館がある。同文学館には『氷点』の資料も数多く展示されている。
以下のあらすじは原作に即したものであり、ドラマでは若干異なる部分もある。
旭川市在住の医師である辻口啓造は、妻の夏枝が村井靖夫と密かに逢引中に、佐石土雄によって3歳の娘ルリ子を絞殺される不幸に遭う。結局のところ夏枝と村井の間に大したことはなかったのだが、これに勘付いた啓造は内に妬心を秘めることになる。
ルリ子の代わりに女の子が欲しいとねだる夏枝に対し、啓造はそれとは知らせずに佐石の娘とされる幼い女の子を引き取る。一つにはキリスト教の教え「汝の敵を愛せよ」を実践したいという気持ちもあったが、実の娘に手をかけて殺した男の娘とも知らずに育てさせ、頃合を見て真実を知らせて落胆する夏枝を見たいという、妻の背信行為に対する屈折した復讐心からの行動であった。女の子は夏枝に陽子と名づけられ、彼らの娘として育てられることになった。
陽子は、真実を知る啓造からはやや冷たくされるものの、夏枝の愛情を受けて、殺人者の血を引くとは思われない程に明るく素直に育っていった。陽子が小学1年生になったある日、夏枝は書斎で啓造の書きかけの手紙を見付ける。そのFX
内容から夏枝は陽子がルリ子を殺した犯人の娘である事を知り、同時に何も知らずに陽子を育てていることに気付いてしまう。
真実を知って絶望した夏枝は陽子の首に手をかけるが、かろうじて思いとどまる。しかしもはや陽子に素直な愛情を注ぐことが出来なくなり、学芸会用の服を用意しない、給食費を渡さないなどの嫌がらせをするようになってしまう。夏枝のこの種の行動は後々まで続くこととなる。一方の陽子は、牛乳配達の手伝いをしていた小学4年生のときに、自分が辻口夫妻の実の娘ではない事を悟る。母の気持ちを察した陽子は牛乳配達の仕事も辞めてしまうが、心に様々な傷を負いながらも飽くまで明るく生きようとする。
辻口夫妻の実の息子である徹は、そのとき中学3年生であったが、常々母の妹に対する態度を不審に思っていた。そんなある日、徹は両親の言い争いから真実を知ってしまう。両親に対するわだかまりを持ちつつ、陽子を幸せにしたいと願う気持ちは時を経るにしたがって異性に対するそれへと膨らむが、陽子のために自分は兄であり続けるべきだという考えから、徹は大学の友人である北原邦雄を陽子に紹介する。
徹が陽子への思いを捨てきれずに先物取引
する一方、陽子と北原は互いに好意を持ち、文通等で順調に交際を進める。しかし、陽子が高校2年生の冬、夏枝は遂に陽子がルリ子を殺した佐石の娘であるということを本人と北原に向かって暴露してしまう。その事実を突き付けられ、追い詰められた陽子は翌朝自殺を図ってしまう。そしてその直後、夏枝たちは陽子の本当の出自を知ることとなる……。
表題の「氷点」は、何があっても前向きに生きようとする陽子の心がついに凍ってしまう瞬間を表している。その原因は、単に継母にひどい仕打ちを受けたという表面的なものではなく、人間が生まれながらにして持つ「原罪」に気付いてしまったことであると解釈される。
2001年
7月12日 - 9月20日、「氷点2001」としてテレビ朝日木曜ドラマ枠で放送。 舞台は現代の鎌倉に変更。アイテムも手紙の代わりに電子メールを使用する。
時は1945年7月、日本軍はビルマ(現在のミャンマー)で連合軍の猛反攻に遭い、戦局は非常に悪くなっていた。
日本軍のある小隊長は音楽学校の出身で、自らの小隊の隊員に合唱を教えていた。そのため、隊員達は歌うことによって、隊の規律と慰めと団結を得ていたのであった。中でも、水島上等兵は才があったため、音楽に熱中し、竪琴の演奏を得意として、FX
隊でたびたび演奏を行っていた。また、水島はビルマ人の格好で斥候に出て、状況を竪琴で小隊に知らせていた。
終戦を迎え、小隊は捕虜となり、ムドンの捕虜収容所に送られる。しかし、終戦を知らない部隊が三角山で戦闘を続けており、このままでは全滅する状況だった。そこで、イギリス軍と交渉して、水島が連絡に行くが、消息不明となる。その後、水島を案じる隊員たちの前に、青いオウムを肩に乗せた、水島によく似た青年仏教僧が現れる。隊員はその僧を呼び止めたが、僧は一言も返さず、逃げるように歩み去った。
そのような事から隊長は、おおよその事情を推察する。親しい物売りの老婆からオウムを譲り受け、「オーイ、ミズシマ、イッショニ、ニッポンヘカエロウ」と日本語を覚えこませた。数日後、隊が森の中で合唱していると、大仏の胎内からふいに聞き覚えのある水島の竪琴の音が聞こえてきた。隊員達は大仏の鉄扉を開けようとするが、固く閉ざされた扉はついに開かない。
小隊が3日後に日本へ帰国することが決まった。隊員達は、青年僧が水島ではないかという思いを捨てきれず、彼を引き連れて帰ろうと毎日合唱した。隊長は、日本語を覚えこませたオウムを青年僧に渡してくれるように不動産
に頼む。出発前日、青年僧が皆の前に姿を現した。収容所の柵ごしに隊員達は『埴生の宿』を合唱する。ついに青年僧はこらえ切れなくなったように竪琴を合唱に合わせてかき鳴らす。彼は水島上等兵だったのだ。隊員達は一緒に日本へ帰ろうと必死に呼びかけた。しかし、彼は黙ってうなだれ、『仰げば尊し』を弾く。祖国のメロディーに心打たれる隊員達を後に、水島は森の中へ去って行った。
翌日、帰国の途につく小隊のもとに、1羽のオウムと封書が届く。 水島は、三角山に立てこもる部隊を説得するも、その部隊は自滅の道を選ぶ。その後、水島はムドンへ向かうが、3、4丈(約10m)の崖から落ちて重症となる。そして水島は、人食い部族に助けられ、祭りの生贄にされそうになる。しかし、強い風が吹いてきたところで、水島は竪琴で、精霊が飛んでくるような音を出す。部族はそれを怖がり、水島を助け、ビルマ僧の服装で見送ってくれた。その後、水島は再びムドンへ向うと、道々で無数の日本兵の死体に出くわす。衝撃を受けた水島は、英霊達の休まる場所を作ってあげずに、自分だけ帰国することはできないと思い、この地に留まろうと決心する。その後、水島は本当の僧侶となったのだった。祖国や懐かしい隊員たちへの惜別の想いと共に、強く静かな決意が手紙には綴られていた。 オウムは「アア、ヤッパリジブンハ、カエルワケニハイカナイ」と叫ぶのだった。
遠藤が70歳の時に発表された。彼の生涯のテーマ「キリスト教と日本人」の最終章となった作品である。1994年に毎日芸術賞を受賞した。
戦後40年程経過した日本が舞台。それぞれの業を背負う現代の日本人5人が、それぞれの理由で印度への旅行を決意し、ツアーに参加する。聖なる河ガンジスは、すべての人間の業を包み込む。5人はそれぞれに人には容易に理解できない深い業を持っていたが偉大なガンジスにより人生の何かを感じることが出来た。
作者の生涯のテーマであった「キリスト教的唯一神論と日本的汎神論の矛盾」を小説中に複数の人間を主人公にして両者の融和点、和解点を探り出させる。それまでの遠藤小説では主に両者の矛盾の描写が主体であったが、この作品ではさらに進んで「日本人のキリスト教」「世界に普遍的なキリスト教」を作り上げている。全13章から構成され、執筆前にインドに何度か取材に訪れるなど遠藤の作品でも綿密に事前に構成をされた作品と考えられている。『沈黙』『白い人・黄色い人』とならぶ傑作と言われる。